(1990年11月)
WWFインターナショナル総裁・エディンバラ公フィリップ殿下
来年、創立20周年を迎えるWWFJapan(世界自然保護基金日本委員会、総裁・秋篠宮殿下)の記念キャンペーン「世界の自然を守る--大切な生物の多様性」が、WWFインターナショナル総裁・エディンバラ公フィリップ殿下をお迎えして始まった。
東洋のガラパゴス
ウエットランド
そのテーマは4つに分かれており、実施期間は1990月から1993年6月まで。「東洋のガラパゴス」といわれる南西諸島(鹿児島、沖縄県)の環境保護をまず取り上げ、続いて熱帯林、野生生物の取引問題、最後は、ウエットランドでしめくくる。
南西諸島(1990年11月~-1992年5月)
日本の中の常夏の国
マングローブ
南西諸島(鹿児島県南部の島々と沖縄県)は「日本の中の常夏の国」。マングローブが育ち、サンゴ礁が発達している。本州や北海道に厳しい寒さが訪れる冬でさえ、ここには明るい太陽が輝いている。
固有の種
当然、動植物もユニーク。固有の種が多く、日本でも南西諸島だけ、いや世界でも南西諸島だけという野生生物が少なくない。
イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナ
例えば、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、トゲネズミなど。鳥類ではルリカケス、アカヒゲ、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ……。
ヤンバルテナガコガネやリュウキュウアユ
両生・は虫類、昆虫、魚類にも固有種が多く、分布は南西諸島だけ、話題は全国区という例が目白押しだ。まだ発見されて数年しかたっていない大型の甲虫・ヤンバルテナガコガネやリュウキュウアユなどは、野生生物に関心のある人なら、きっと知っているだろう。
奄美大島
アマミノクロウサギ
種の多様性に富む宝庫、南西諸島の自然。かつて奄美大島を訪れて、アマミノクロウサギなどを観察されたエディンバラ公は、「この豊かな自然を、みなさんは責任を持って守っていただきたい」と述べられた。
サンゴ礁、ノグチゲラ、ケナガネズミ
IUCN(国際自然保護連合
そのたぐいまれな南西諸島の自然が病んでいる。世界的にみても素晴らしいサンゴ礁の多く(一説には90%)が失われた。イリオモテヤマネコは約100頭、ノグチゲラも約100羽が残るだけ。日本最大の美しい樹上性のケナガネズミは専門家さえ観察が困難になった。リュウキュウアユは沖縄県では数年前に絶滅したとされ、最後のとりでとなった奄美大島でも4本の川に、わずかに生き残っているだけだという。こうした種の大半は、IUCN(国際自然保護連合)が作成した「生存を脅かされている種のレッド・リスト」にも載せられている。
珍しい野生生物
独自の生態系
この南西諸島に限らず、海にかこまれた島には珍しい野生生物が残っていたり、独自の生態系が成り立っているケースは多い。しかし、島の生態系は極めてもろく、大規模な開発や土地の造成、ダムの建設などが、自然に与える打撃は大きい。それが目に見えるようになってからでは手遅れになる。
南西諸島自然保護特別委員会
希少種、固有種
このためWWFJは、早くから地元出身の池原貞雄琉球大名誉教授(動物学)を委員長に南西諸島自然保護特別委員会を設け、調査や提言を行ってきたが、今回はさらに一段と突っ込んだ調査と保護の推進に努めることになった。例えば希少種、固有種などのために新たな保護区の設定を求めることも考えられる。
熱帯林(1991年7月~1991年11月)
種と遺伝子の宝庫
種と遺伝子の宝庫といえば、熱帯林。とくに熱帯雨林にまさるところはない。その熱帯雨林が急速に失われているのは周知の事実だが、ごく最近、これまでの指摘以上に失われていることが明らかとなった。
東南アジア
森林破壊
熱帯林の消失には、さまざまな原因が考えられる。しかし、例えば日本が東南アジアの木材の最大の輸入国であるという事実は、森林破壊と無縁だとはいえず、切りっ放しは絶対に許されないだろう。
ボルネオのサラワク州(マレーシア領)
森林伐採
とくにボルネオのサラワク州(マレーシア領)での森林伐採は激しく、あと10年で消滅するだろうといわれている。
環境アセスメント
政府開発援助(ODA)
このため、熱帯林の保護についての一般の認識を高めようと、日本の消費者、政府、企業などに働きかけることになった。熱帯木材の浪費的な使用をやめるよう呼びかけるとともに、その輸入は、森林が持続可能なレベルで生産されている地域からに限るよう各方面で運動。日本からの経済援助も、自然破壊につながらないよう十分な環境アセスメントと検証が行われるよう求めていく。政府開発援助(ODA)も環境面への比重を大きくし、とくに熱帯林保護のためのものを増やすよう働きかける。
野生生物の取引(1992年2月~1992年5月)
生息地の破壊
毛皮やハンドバッグ、ベッコウ
野生生物の存続を脅かすものとしては、生息地の破壊のほかに、商業目的の取引がある。日本は、アメリカに次いで世界第二の野生生物の消費国だといわれており、輸入しているものは、動物園やペット用の生きた動物から、毛皮やハンドバッグなどの製品、メガネのフレームなどに使われるベッコウまで多方面にわたっている。
ワシントン条約
国際取引(ODA)
こうした野生生物の国際取引を規制するために1975年、ワシントン条約が結ばれたものの、日本の場合、留保の数が多いうえ、日本国内での施行が十分でないこともあって、条約違反の取引や不正な輸入が相次いでいる。
アフリカゾウ保護行動計画
ワシントン条約の締約国会議
このため、1992年3月、日本で初めてワシントン条約の締約国会議が開かれるのに合わせて消費者に訴え、需要を減らす一方、政府に留保の撤回、国内法の整備を働きかけていく。ODAから、アフリカゾウ保護行動計画など絶滅のおそれのある種の保護のための基金への拠出--も求めていく予定だ。
ウエットランド(1992年12月~1993年6月)
湿地、湿原、河川、湖沼、干潟
洪水の防止、水質保全や水の供給
湿地、湿原、河川、湖沼、干潟などウエットランドは、生産性の豊かな生態系で、熱帯雨林とともに種の宝庫。水鳥や魚類の産卵、生育場所となるだけでなく、洪水の防止、水質保全や水の供給など、人間社会にとっても大切な役割を果たしている。
ラムサール条約
釧路湿原、クッチャロ湖、伊豆沼
このウエットランドが、かんがい、埋め立て、廃棄物による水質汚染などによって、目に見えて減少したり、存在を脅かされたりしてきたので、その保護のために1971年、ラムサール条約が結ばれた。日本の釧路湿原、クッチャロ湖、伊豆沼・内沼を含め、これまでに500地点以上(総面積約3000万ヘクタール)が国際的に重要なウエットランドとして登録されている。
釧路市
1993年6月、このラムサール条約の締約国会議が釧路市で開かれるのを機会に、日本の主要なウエットランドを調査、とくに貴重な地域を登録するよう運動。ウエットランドの重要性を各方面に訴え、開発途上国のウエットランド保護のための日本政府の援助を求めていく。